ダイソンとロックウェルと   (通算50記事目 特集)

skyex2010-07-10

プロフィール



skyex

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見果てぬ夢を形にするスドリームデザイナーIt is Sdream Designer in shape as for the faraway dream. :yoichi takahashi

 
ダイソンが扇風機を出したという。 それも"翅の無い扇風機"である。昨年秋に発表があったが
日本では冬に向かう時期だったのでしばらくして話題は途絶えた。 季節は
めぐり、、、再び、必要になる季節が到来したので最近また露出度は高まってきている。
出典:ダイソン社 HPより。
 ”翅がなくて風が出る!”という、マジックにも似たこれまでにない”発明的スタイリング”には少々驚いた。
”翅が無い”と言うと”かの国では問題になりそうであるが、翅は姿形を変えてちゃんとあることを暴露しておこう!。 円形リングを支えているベースの中にダイソンお得意のインペラー(扇車)が収まっていて、圧縮空気を作りだし、リング状のスリットに導いている。リング状のスリットから噴出された空気はカーブした翼型断面形状に沿って流れ、同時に空気の粘性によって周囲の空気を誘い、大きな流れを誘導する原理で多量の風を送風する仕組みである。
ダイソン社 HPより。
しかし、そのカラクリが判ると、ますます、掃除機に続いてダイソンの空気力学的素養と応用能力には感涙する!しだいである。
 そのカラクリは空気力学や航空工学ではしばし用いられている”コアンダ効果とオーギュメント効果の応用である。
 コアンダ効果は粘性ある流体が物に沿って流れる現象であり、ルーマニア人:アンリ コアンダが発見した。

下図はアンリ コアンダが開発した、初のジェット機プロトタイプ。サーモジェットと呼ばれる、外部動力圧縮機を使用したジェットエンジンを搭載。 初飛行の際に機体が破損し、そのジェット流が胴体に沿っていることに気づいたことが大きな”発見”につながった。
出典:Wiki

オーギュメント効果は流体を太い管に中に早い速度で噴出させると周りの流体もその流れに誘導されて大きな流れになる現象である。

ともに流体の持つ粘性を利用する効果である。
 航空工学では初期に学ぶ基本原理の項目にある。
 この2つの原理は ともに航空機の”翼”のメカニズムに巧みに応用されているので紹介しよう。
以下は”コアンダ効果”を使った日本のSTOL(短距離離着陸機)の”飛鳥”である。
出典:Wikiより

翼の上に搭載したジェット排気流をフラップで滑らかに下方に曲げて、ジェット噴射流で
揚力を稼ぎ、短い距離で離着陸を可能とした技術である。
by Wiki.
現在は実験の役目を終えて、岐阜県各務ヶ原の航空博物館に展示されている。

この翼の上に空気流を噴出し、揚力を稼ぐ方法は超音速戦闘機のバリアブルカンバー フラップにも使われている。
超音速で飛ぶために翼は抵抗の少ない極めて薄い断面をしている。しかし離着陸の際には速度を落とすことが要求されるため、翼の前後を折り曲げて、見かけのカンバーを大きくし、揚力係数の大きな翼に変化させる。このときに折り曲げたところから気流が剥離して失速につながる恐れがある。これを防ぐために折り曲げ点に設置されたパイプから
高圧空気を翼上面に噴出させて、コアンダ効果を使い、翼上面の空気流を加速し、失速を防いでいる。


出典:Boeing HPより。



次はオーギュメント効果を使った米海軍VTOL試作機のロックウェルXFV-12A。
出典:Wikiより

 中央の胴体のジェットエンジンから高圧空気とジェット排気流をダクトで左右前後の4枚の翼に導き、フラップの隙間が作り出す、スリットから高速で噴出し、オーギュメント効果で
発生する大量の下降気流でVTOL(垂直離着陸)を可能とする構想であった、、、。


発表当時はSFを思わせる、カナード翼機はその斬新なスタイルで多くの航空ファンを喜ばせたのだが、、、、。
このロックウェルXFV-12Aは結局、”鳴かず飛ばず”の失敗作におわり、博物館行きとなった。原因は機体重量の割りにジェットエンジンの推力が足りず、VTOLに必要な予定したオーギュメント効果が得られなかったことにある。 VTOLは正味機体重量以上の推力が必ず必須であり、そこに垂直離着陸する乗り物の設計の厳しさがある。

次はヘリコプターのボーイングエクスプローラ
出典:ボーイング社HPより
 このヘリコプターも革新的な機体である。これまで単ローターヘリには必ず必要とされてきた後部の半トルクローターをコアンダ効果で不要にした。
原理は尾部のブームを中空パイプにして、ブームの側面に設けたスリットから高圧空気を噴射して、
コアンダ効果で気流をまげて、それに誘導されるメインローターのダウンウオッシュ(吹き降ろし流れ)のマグナス効果でメインローターの反トルクを稼ぐカラクリである。


ただ単に部品が無くなるだけでなく
 尾部ローターの危険性の排除や回転騒音が減少するなど安全性が向上し、後部ドアでの急患を乗せたストレッチャ作業が必須のドクターヘリに
 高く評価され、多く採用が進んでいる。
フジTV系のドラマ”CODE BLUE”でも登場したへりなのでご存知の読者も多いと思う。
下は日本でも先陣を切って導入した日本医科大学千葉北総病院の運行するドクターへり

テールローターが無いので後部のクラムシェルドアからのアプローチが安全になった。

出典:日本医科大学千葉北総病院のHPより、http://hokuso-h.nms.ac.jp/

それにしても、ダイソンは空気力学を自ら学んだのか、、、、彼の履歴をWikis、するとデザイン系の人である、、空気力学的発明には程遠い芸術系ジャンルの人であるし、 単なる思い着きでは到達できないはずだが、、それとも”側近”に空気力学の”凄腕”設計者?がいるのか、、、、想像は尽きマジ。

騒音対策にもダイソン氏は知恵を絞っている。なんとインペラーの翼の取り付け角度を不同角変化させて、騒音周波数を乱し、お互いに干渉させて、低騒音化しているには驚きである。
 軍用ヘリコプターの低騒音対策として、テールローターのファンの取り付け角度を不同角にしているのは
軍用機設計には言わずと知れた対策ではあるが、、、、。そこまでやるとは。
下図はファンの取り付け角を不同角にして、低騒音化対策をした国産ヘリコプターの陸上自衛隊現用のOH-1軽観測ヘリ

英国は航空機開発の歴史にしても数々のエポックを作ってきたお国柄である。 空力楕円翼スピットファイアー・オール木製の軽量爆撃機デハビランド−モスキート・ジェット戦闘機のグロスターホイットル・超音速旅客機のコンコルド
ホバークラフト・垂直離着陸機のハリアー・ 名門ロールスロイスジェットエンジンなど航空技術や
空力技術の裾野が幅広く、エンジニアの資質もみがかれているのだろう。

 それにしても、、この勢いに乗って、ダイソン氏はこれからも”空気力学”をキーワードにして、革新的応用製品をどんどん!!出してくるのであろーか。 氏の活躍が楽しみである。

PS:ブログは本記事で通算50記事目となった。 これまでの約45年近い航空ファンとして収集習得した空気力学、航空工学などの航空知識を生かし、趣味のラジコンや航空・船舶などのオリジナル作品を何とか記録にとどめたいと想い、はじめて3年。 ストーリーは実際にあったものから、白昼夢的創作ドラマ、好きな空力コラムや航空技術解説などが中心となってしまったが、、、、。
 何でも"100を数えると鬼が着く!"と昔のことわざにあるので、今後は100”号記事達成をめざして、ますます、”鬼気”せまる内容に
嬉々”として取り組みたいと考える。