ダイソンとホイットルと

ダイソンとホイットル



skyex

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見果てぬ夢を形にするスドリームデザイナーIt is Sdream Designer in shape as for the faraway dream. :yoichi takahashi

もう十年以前にもなろうか、英国のダイソン社の家庭用掃除機をはじめて見たとき、おや?どこかで見かけたことのある形?だなと連想した。ジェームズダイソン氏が開発した吸引力の落ちない掃除機のメカニズムの根幹をなす円環状に多数集合したサイクロンシリンダーの形である。


出典:ダイソン社HPより。
瞬時に私の記憶の回路はジェットエンジンコンバスチョンチャンバー(燃焼室)の形に直結した。それは”CAN型燃焼室”と呼ばれるジェットエンジンの燃焼パワーを生み出す重要機能部品である。
 ジェットエンジンの根幹を成す基本形状を生み出したのは航空界で”ジェットエンジンの父”と呼ばれている”フランクホイットル卿である。 フランクホイットル氏もまた英国の人である。二人は”英国人”と”空気力学”で見事に私の脳でつながった。
 下図はフランクホイットル氏の開発したジェットエンジンを搭載した英国初のジェット戦闘機”グロスターホイットルE28”
の記念碑である。 看板にホイットル氏の名前がある。
出典:Wikipedia
下はジェットエンジン開発初期の画像(たくさんの”CAN型燃焼室”の原型が見られる)
 ジェットエンジンの構想を実現化すべく、ホイットル氏はこの様な”バラック小屋”でジェットエンジンの開発実験を重ねた。
出典:1990版航空情報別冊”数式を使わないジェットエンジンの話”より
抜粋
  英国人も垂直離着陸戦闘機のハリヤーをはじめ、特徴ある空気力学応用発明品を多く生み出している。
出典:Wikipedia
ダイソン氏がこのジェットエンジンの構造にヒントを得たかは定かでないが、サイクロン掃除機の構造は
形的にジェットエンジンに似ていて興味深いのでそのあたりを空気力学的視点から分析して見よう。
 サイクロンの原理は米国人モースの発明であり、サイクロンの物体選別機能は工業用途に随分昔から使用されている。
私も子供のころ、よく工作材料を求めて、製材所(木材を原木丸太から板に裁断する工場)によく行ったものであるが
そこには必ず、大きなサイクロンが設置してあった。丸ノコ盤からでる多量のおがくずを選別集塵するためである。
 ダイソン氏はこのサイクロン効果を巧みに利用して、フィルターの無い掃除機に原理を応用したのであるが、サイクロン管も一つだけでは効果が今ひとつなのでそれをたくさん束ねて円環状にして、集合効果を出したのが特徴である。 その形状が
ジェットエンジンの基本構造と考えかたが似ている
 下はフランクホイットルが実用化したジェットエンジンと同じ構造を持つものである。セントリフューガル(遠心式)式と呼ばれている比較的構造が簡単な初期型のエンジンである。現在ではほとんどがアキシャルフロー(軸流式)式となっているので見かけることは少なくなった。
出典:Wikipedia
 左から取り入れた空気はインペラー(翼車)と呼ばれる遠心式の圧縮機で圧縮され、マニホールドと呼ばれる多岐管を通じて、円環状に配置した燃焼室に入る。そこで、空燃比約15:1で燃料のケロシンとミックスされて燃焼、膨張した排気はタービンを回し、有り余る膨張ガスは噴射口より音速に近いスピードで排出され、反動エネルギーを生み出す仕組みである。これが連続的に行われる。これをブレイトンサイクル呼ぶ。

 ところが、ダイソンの考案したサイクロン掃除機はこのジェットエンジンとは流れがまったく”逆”である。
下はダイソンの掃除機の基本構造を記す。

 左の集塵ノズルから入ったチリの混ざった空気は一段目のサイクロンに入り、大きなごみを分ける、さらにその上の円環状の配置した小径のサイクロンに入り、さらに低圧に加速され、小さなチリを分離する。さらにマニホールド(多岐管)をさかのぼり、空気を負圧で吸い出しているファンを通過して、外界に出る。空気を吸い出しているファンはインペラー(翼車)であり、これもジェットエンジンの遠心式インペラー(翼車)と同じ物である。
 つまり、空気の流れは両者ではまったく逆の流れであるが両者ともその工程で発生する空気圧力は大気圧で入って仕事をして、やがて大気圧に戻る。その流れは正圧と負圧の差こそあれ同じ原理を利用している。
 さらに、カン型燃焼室とダイソン氏のルートサイクロンテクノロジーと呼ばれるサイクロンの空気の流れは同じ”旋廻流”をうまく利用している。 ジェットエンジンのカン型燃焼室は点火された燃料の炎が吹き消されないようにする為、流れを旋廻させている。渦を発生させて、エネルギーを与え、炎を留まらせている仕組みになっている。これを専門的には”保炎”とよんでおり、燃焼を連続的に安定させる重要な仕組みである。

 一方、サイクロン管も旋廻流(サイクロン渦)を発生させて、チリを遠心力で吹き飛ばし、分離している。働きは違うが同じ旋廻空気流の性質を
うまく使用している。このようにサイクロン(渦)にはエネルギーを保有する性質がある。
さらに、空気に仕事をさせる元を作り出す、送風機にもインペラーと呼ばれる高効率のファンを使っている点も同じだ。
*インペラーはジェットエンジンガスタービンに使用されていて、その羽の形状は複雑であり、製造は5軸DNCマシンの切削か、ロストワックスによる鋳造でしか作れないため、高性能ではあるが非常に高価である。
ジェットエンジンのインペラー (チタン合金製)

出典:Wikipedia

ダイソン掃除機のインペラー
 出典:ダイソン社HPより。

ホイットル氏のジェットエンジンとダイソン氏の掃除機は
 ●空気の流れを作るのに同じタイプのインペラーを使っている。(他メーカ   ーの掃除機の吸気ファンは大多数がターボファン形式)
 ●重要な仕事は多くの器官に分散させる効率を上げ、処理量を確保する。カン   型燃焼室、サイクロン管をたくさん束ねる。
  *航空工学では分散させて処理量を確保するとともにリスクを回避する設計 を随所にとりいれている。カン型燃焼室やサイクロン管を束ねる手法は見 事に故障に備えた集合効果とリスク回避の分散効果の相乗効果を狙っている。一本が故障しても残りでカバーする。
 ●連続的な仕事はステップを踏み、多段でこなす。ジェットエンジンの多段タ  ービン、サイクロンの多段管。
  *航空工学ではエネルギーをうまく利用するには多段でこなすことがふんだ   んに使われている。
 ●まったく逆の流れではあるが空気流と圧力流れの性質を使い、高効率なデバ  イスを使用している。
   *旋廻気流エネルギーの活用、渦流れの持つエネルギーを利用。
   

 このようなことから、ダイソンの掃除機とホイットルのジェットエンジンは 私には空気力学的に”相似機”と見えるのである。