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 私が体験搭乗したL39アドバトロスの機体を説明しよう。
製造国はチェコスロバキア、冷戦下の70年代に開発された。
アエロ L-39 アルバトロス(チェコ語:L-39 Albatros)は、
チェコスロバキア{アエロ・ヴォドホディ社}で開発された高等ジェット練習機である。
攻撃機としても使用されている。

冷戦後には外貨獲得のため、多数が西側諸国に売却されたようだ。
 ジェット戦闘機の高等練習機としてはその基本性能には定評があり、
 米国のジェット練習機にもノミネートされたことがある。
民間アクロチームのブライトリングや、リノエヤレースにも出場していて
米国ではかなり、民間所有がされている。
 私の乗った機体もNZウオーバード協会のMr.グレン氏が個人所有している
機体である。なんともジェット戦闘機を個人所有できてしまうことに驚きであると
ともに羨ましい限りである。
 日本ならば、武装を外していてもとても法律上許されることは難しいと考える。
(輸入許可申請をしてみないと判らないが、、、)

近寄ってみると機体は大変状態が良く、機体表面やコクピット内部も大変きれいで
とても、使い古した軍用機の払い下げといった感じはしない。

 車ならば、新古車といった感じだ。おそらく外貨獲得のために製造したようにも
思えてしまう。
 Mr,グレン氏とNZWBスタッフはそのL39をあたかも、車を車庫から出すように
牽引車で口笛でも吹きながら、格納庫から引っ張りだした。しかも、牽引車は
農業用のトラクターを改造したものである。もっともこのアドモア飛行場の周囲は見渡す限りの
 牧用地なので、重量物移動用としては調達が簡単なのだ。

 機体はタンデム配置のコクピットと単発ターボファンジェットエンジンの組み合わせで
大変スリムでロングノーズの美しいスタイルにまとめている。ロシア管轄化に設計された機体ではあるが
ロシア機に見られる無骨なラインや造形が一切見られない。

チェコ人特有のデザインセンスが現れていると思われる。
ロングノーズの機種にはレーダードームがある。
レーダードームの直径は小さいので捜索レンジはあまり、稼げないだろう。
もっとも、地上射撃中心の攻撃機としては、小径のドップラーレーダーでも
十分であろう。

 搭乗した機体は武装が外されているのでレーダーも搭載していない。
レーダーの後部には乗員用の酸素ボトルがある。機種にはその酸素量の計器がある。
 機体の後部上部に左右両側に空気取り入れ口を配置しているのがこの機体の特徴である。
これは、東側諸国の未舗装滑走路や前進基地の不正地での離着陸を考慮し、FOD(異物吸入)を
避けるためである。
 A4スカイホークやM339、BAEホークなどもこのスタイルであるが、ここまで機体の後部に
位置しているのは珍しい。この位置だと空気取り入れダクトが短くなるのでダクト損失が
少なくて流体力学的に効率が良くなる。また、機体全体のエリアルール効果も良くなり
機体の全体抗力低減にもつながるので優れた設計である。
エヤインテークは半形円形型の固定タイプである。胴体との間には境界層制御板が設置されていて、
胴体にまとわり付く乱れた空気を排除するようになっている。
 主翼は練習機として低速度域での空力安定を重視した前縁と後縁に浅い後退角の付いた平面形の翼を持っている。
翼厚は13%程度で亜音速から低速度域に対応している。

 両翼端には燃料増槽(50ガロン)が付いている。この燃料増槽も空気力学的に翼端渦を制御
して、翼の揚抗比を改善するとともに燃料重量を分担して主翼取り付け部の構造重量を軽減している。
この翼端増槽タンクの先端にはランディングライト(着陸灯)が付いている。
エンジンはZMDBイーウチェンコAI-25TLターボファンエンジン単発で約1.7トンの推力を持つ。
お尻からエンジンを覗いてみたが、フレームホルダーなどは無く、アフターバーナーは装備していない。
右側にパイプが見えるがこれはデモフライトに使用するスモーク発生用のオイルパイプと思われる。

 車輪はシンプルな単車輪タイプのノーズとメインの3車輪形式である。
それぞれ、カンチレバータイプのオレオ装置つきである。
 この車輪にも特徴がある。本来ノーズギア支柱にはステアリングのために油圧シリンダがあるが
このL39には見当たらない。

パイロットに確認したら、車輪の操向装置はないと言う。どうして
左右首ふりするか、聞くと、メイン車輪のブレーキを左右踏み分けて利かせて、その抵抗でノーズのキャスター
効果を使い、ペダルの踏み加減で左右方向角度を決めていると言う。これも車輪の単純化と合理化コストダウンで徹底している。
しかし、この方法はかなり、操舵に慣れが必要なので、きっと新人練習生パイロット泣かせの
車輪と思う。 かなり、練習中に誘導路からの脱輪の連続に悩まされていることだろう。
 まっもっとも時速60KM以上になると、方向舵の効果が利いてくるので滑走中は気遣いは不要だろう。
垂直尾翼もロシア系の戦闘機に見られるぶつ切りの無骨感はなく、英国のBEAホークのようななだらかなR処理で終わっている。

このラインもチェコ人の感覚がみられる。

水平尾翼はジェット戦闘機には当たり前のオールフライング方式ではなく安定板+エレベーター舵面方式の一般的なものである。
ただ、安定板のトレーディングエッジ下面に一列ボーテックスジェネレータ
が取り付けられている。はやり、舵面方式では、低速時や高迎え角の飛行時にエレベーター(ピッチ)をいっぱいに引くと舵面失速を
起こしやすい傾向にあるのだろう。ボーテックスジェネレータで気流にエネルギーを与え、失速を防止している。
 コクピットは正面に主要計器版、左にエンジン出力系統の操作、右に主要操縦系統の操作パネルがある。
この辺りは西側諸国と基本は同じである。

しかし、主要計器版の色とレイアウトが違っている。
パネルのいろは西側のブラック基調とは違い、明るいグレー色である。この色が異国感(ロシア系)を強く
感じさせる。 計器パネルのレイアウトも西側のものは”ベーシックT”型配置(姿勢儀を中心に左に速度計、右に高度計、下に水平状態計器)
で統一されているので、それを見慣れた目には計器の位置に慣れるのに多少時間がかかる。
操縦桿も東欧諸国に戦闘機には標準のスタイルである。グリップはプラスチック製ではなく、金属のダイキャスト性のようだ。

トリムボタンとマイク切り替え、前方には、金属レバーの武装装置レバーが付いている
ごくシンプルなものである。米国のものを見慣れた目にはいささか、物足りなさを感じてしまう。

座席はアエロ製のVS-1-BRIゼロゼロ射出座席である。ゼロゼロ(0-0)とはゼロスピード、ゼロ高度でもパイロットを安全に脱出させることの
できる座席のことである。

つまり、地上にあるときでも万一火災などの不測事態でも脱出操作をすれば座席に仕掛けられた
ロケット推進装置で座席ごと150mの高度に打ち上げられ、パラシュートが自動的にひらき、パイロットは安全に地上に降り立つことができる大したイスである。機体外部にはそのロケット噴射のイラストで注意マーキングがある。
射出座席装置は高高度での脱出に備え、酸素ボトルも装備されている。海上や砂漠、ジャングルに下りた場合でもサバイバル用ボートやサバイバル用の食料キットも装備している。
もちろん映画”エミニーーライン”で有名になったGPS追跡支援装置のイーパブートランスポンダ自動発信器も装備されている。
 だから、パイロットのグレンさんからこの脱出装置の操作方法の説明を聞いたとき、私には思わず緊張感が走ってしまった。
 最も、つい最近、お隣の国では、空軍のお偉いさんが座席の位置移動レバーと間違って引いてしまい、緊急脱出装置を使って、
地上に降り立つ”高度な芸当”をやってしまっている。
 この機体で関心したのは、操縦席に乗り降りに使うステップが外部ラダー式でなく機体格納式でよくできている。

構造はAL板金とパイプので軽量かつ頑丈に作られていて、格納すると機体のボディラインと一体の面一となる。
もっとも旧米海軍F14トムキャット戦闘機もステップが格納式であったがこの他の戦闘機に格納式はない。
 東欧諸国の機体アクセサリーが不十分な基地でも、乗り込みが自立できるように配慮していると考える。
ただ、なれないとこのステップの最初の右足、左足の順番を踏み間違うと操縦席に入れなくなるという悲劇が起こってしまう。
コクピットの側面の黒い縦ラインはその格納ステップの位置と左右ステップの踏み出し順番を表示している。
筆者も自分で乗り込もうとして、左右を間違え、パイロットのグレンさんに足の踏み変えを注意されてしまった。
 パイロットのグレンさんは機体から降りる際にも自分で風防ガラス枠を持ち、機体側面のこの、格納ラダーを
足先で器用に開けて、誰の手も借りずに降りているのでこのL39の格納ステップはその様な芸当ができてしまう。

 このL39はまさに、前線基地や未整備軍用滑走路での運用を考慮した優れた戦闘機設計はこの搭乗ステップにも
現れていると考える。