ハドソン川の(機跡)奇跡  Miracle of Hudson River

skyex2009-01-31



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skyex

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見果てぬ夢を形にするスドリームデザイナーIt is Sdream Designer in shape as for the faraway dream. :yoichi takahashi


  年明け早々から、米国で航空機事故のニュ−スが入ってきた。最初のニューストップはニューヨークの川に墜落!。とあったので
20数年前のポトマック川の大惨事を思い起こした。その後のニュ−スでハドソン川に着水、死者なしで負傷者あるも全員救出とあり、ひとまず安心した。なかでもバードストライクで2基のエンジンがストップする中での機長の気転のきいた判断で無事着水したことが大変な話題になり、その行動は英雄的扱いとなった。
 このニュースで知人などから、ジェット旅客機にたいしていろいろ聞かれることが多かったのでそのドキュメントとしてまとめて見た。 タイトルをみて、間違い?!に気づいた読者もいるだろうが、、何処かの国の首相と違って、漢字を書き間違えたわけではなく、正しくは”ハドソン川の奇跡”であるがこの事故を航空機メカニズムの側面から見て、その時系列で旅客機A320の機体に何が起こったかを解説してみようということで”飛行機の機跡”をアレンジし、”機跡”とした。
 今回の事故にあった旅客機はヨーロッパエアバスインダストリー製のA320、150席クラスの双発ジェットで旅客機として初めてフライバイワイヤなる操縦システムを搭載し、操縦輪でなくサイドスティックで機体をコントロールするので”ゲーム感覚”で飛行機を操縦するということで初飛行当時話題になったことがある。

その飛行機が離陸直後に渡り鳥の大群に遭遇し、エンジンに多量に吸い込んですべてのエンジンがストップするという異例の異常事態に陥ったのである。
 航空機事故の多くが統計的に離陸の5分間と着陸の6分間に集中していてこのタイムゾーンを”クリティカルイレブンミニッツ”きわどい11分間と言ってパイロットの間でも最も神経を削る時間と呼ばれている。

 飛行力学的にもこの時間はエンジン推力と機体の空気抵抗、飛行機の自重と翼が発生する揚力がギリギリで釣合っているキワドイ状態でもある。事故機は正常にラガーディア空港を離陸し、1分後の高度3500feet(約900m)の上昇中であり、車輪は既に格納されクリーンな状態ではあるが揚力が最大に必要な時で主翼は離陸ポジションのスラット、フラップ位置でまだ抵抗が大きく、エンジンは離陸上昇の最大推力で運転中であった。このときに鳥(真雁)の大群が主翼の2つにエンジンに吸い込まれてエンジンがストップした。
鳥をジェットエンジンが吸い込んでストップした例はたくさんあり、航空会社では頭痛のタネとなっている。ジェットエンジンの業界では広い意味でFOD(foreign object damage)といい、ジェットエンジンが好んで吸い込むものに鳥、水、氷、雪 、火山灰、雹、石、砂、タイヤの破片、工具、腕時計、から、なんと入れ歯まである。鳥、水、氷、雪は空中の自然環境で避けられず、石、砂、タイヤの破片、工具は地上を滑走中に、腕時計、入れ歯は地上運転中に人間の行動に起因する。
下図はA320に搭載しているフランスのスネクマ社製のCFM56-5型ファンジェットエンジンの断面カットである。

バイパス比は5:1ある。バイパス比はファンを通過した冷たい空気と燃焼室を通過した熱いガスの比率をさす。
この比が大きいほど高効率、低燃費、低公害、高出力(旅客機の常用マッハ数では)のバロメーターとなっている。最大推力は約15トンである。前面のファンブレードは約3500rpm、後ろのタービンブレードは
約30、000rpmで回転している。圧縮機翼列は多段のブレードとガイドベーンが交互に並び段々空気通路が狭くなるように設計されているのでこれに異物が吸い込まれるとブレードやベーンがダメージを受ける。

ジェットエンジンの開発過程ではこれらを運転中のエンジンに放りこみダメージのテストをしている。鳥の場合は
7面鳥を空気砲で強制的に回転しているファンブレードに打ち込みテストし、数匹程度のものなら完全に破壊されるようにファンブレードを強化している。
小さな鳥なら燃焼室を通って完全な焼き鳥?状態となって秒速300mのスピードで排出される。もっとも燃焼室温度は1600度を超える温度なのでもはや鳥の姿など無く、ガスとなって放出されるが、、、、、。

ただ今回のような比較的大型鳥が大群で吸い込まれるといかに強度を増したチタン合金製の
ファンブレードでも破壊が進み、鳥やブレードの破片が高圧圧縮機の細かいファン列に食い込み、急激な破壊が進み
エンジンサイクルが維持できなくなり、エンジン停止となる。 
真雁の大きさは体調75cm、A320搭載のCMF56ファンジェットエンジンのファンブレード直径は約1.75mでスケールをあわせたら下図のような関係となる。真雁が吸い込まれたら、一段目のファンブレードで大きく粉砕されるが低圧コンプレッサーや高圧コンプレッサーの隙間はかなり小さくなりこのあたりでは粉砕片が詰ってしまって圧縮機の機能が大きく阻害されるのが理解できる。
この画のように10羽くらいの編隊が吸い込まれたらたちまち詰まりを起こすのは避けられないと推測できる。パイロットのサレンバーガー機長の話によると風防ガラスが真っ黒に覆われるくらいの鳥の大群であったと言っているので数十匹の真雁が吸い込まれたことが想像される。

なるべく鳥が避けるようにするために一時期前面ファンのスピンナーに渦巻き状のパターンを描いた対策を全日空などが採用したが効果なく現在はやめている。
ならば、エンジンの前に金網を着けたらどうだ、というアイデアが浮かぶが、ジェットエンジンの吸い込み力は強大であり、時には地上運転中に人間を吸い込むほどの吸引力がある。軍用機のジェット吸い込み口にはそのために警告パターンが表示してある。

仮に網を着けるとしても目の細かいものでは強度が持たず、かといって吸い込みに打ち勝つ強度の網材は大きくなり、重量増加はおろか、空気吸入量の不足と網目がもたらすカルマン渦でファンブレードや圧縮機が不安定となり、正常に運転が困難になるのである。したがって鳥を防ぐ有効なアイデアは今のところ無い。
 飛行中に遭遇する真雁(まがん)の編隊も亜音速で接近してくる飛行機にたしては急には”まがん”れないと言っているに違いない。しかも彼ら真雁は生命維持活動として”渡り”をしているのであって決して”金銭欲”が目的では無い。何処かの国の強欲カンリョウが定年退職後も天下り先の会社を転々と”渡り”を繰り返して、およそ生命維持にははるかに多すぎる”巨億の退職金”を手に入れているのを同じ”渡り”という表現をしてはいかがなものかと考える。

 そんな状態で今回は2基のエンジンが停止となった。離陸上昇時なのでエンジンは最大推力の15トン、計30トンの力で A320の機体を牽引し、離陸重量約70トンに見合った主翼の揚力と前進力を稼いでいた。そのエンジンが止まったら、推力0の状態となり、推測すると数10秒間はこれまでの慣性でそのまま離陸姿勢が維持できるがたちまち、エヤバス機の形状抵抗は大きいのですぐ、速度を失い、失速速度粋に突入してしまい危険な状態となる。
 パイロットの訓練のなかで離陸上昇中の片発停止の訓練はシュミレーターで訓練しているので対処できるが、今回のように両方のエンジンがストップすることは訓練では聞いたことがない。想定外の前代見聞の状態である。そのときのパイロットの俊敏な判断が乗員の命を決める結果となる。

 筆者は長年にわたり、模型ラジコン飛行機を操縦してきたがラジコンの離陸直後のエンジンストップを多く経験した。
最初のうちは本能的に自分の方向へ戻そうと180度の旋廻をさせる操作をしていたがほとんど旋廻直後に失速をさせて多くの機体を墜落破損させた経験がある。(さて面妖な?!オモチャとハイテク旅客機を一緒に考えるなと”どこかの識者”から怒られそうであるが、地球重力と大気の中でその空気力作用を使って運動する物体としてはまったく同じ挙動を示す。NASAでも航空機の開発にはラジコン機も使用している。そんな経験のなかで体得したことは離陸直後のエンジンストップにはその飛行姿勢をそのまま維持し、旋廻など前進エネルギーを消耗する運動は避け、機首を下げ、前方45度以内に範囲に不時着する
場所を探し、そこに滑り込ませることである。これでずいぶん機体を墜落から護った。

ドーンという異音とともにエンジン音が消え、EICAS計器(エンジン情報計器)に目をやるとN1、EGT、FF、EPGの各数値が一斉に0をさして落ちていくのを目の当たりにしたであろう。それはパイロットにとっては”驚愕の瞬間”であっただろう。ジェットエンジンからは圧縮空気、電力、油圧といった飛行状態と客室環境を維持するためにさまざまな重要なエネルギーが供給されているがそれもすべてストップ!!である。

それでも航空機には緊急時に2重3重のバックアップシステムを装備している。エンジンがストップした段階で最低限操縦に必用な電力は非常用のバッテリーに切り替わり、機首に装備のRAT(ラムエヤータービン:風車)発電機が展開作動し、発電を始めるようにシーケンスされている。客室環境は後部のAPU(補助ガスタービン)が100%供給に切り替わりの圧縮空気と電力で当座をしのいだ。幸いA320は先述したようにフライバイワイヤという操縦システムであり、油圧がストップしても電力さえあれば操縦は可能だ。
 操縦システムは確保してもA320はオートパイロットで離陸上昇モードなっているのでまず、このモードを解除しマニュアルモードにセットし直す必要がある。
 いかにオートパイロットでも今回の異常事態に対処するプログラムはされていないのでこのまま放置するとスピードが極端に落ちて悪質なディ−プストールに陥りA320は墜落する。
 数十秒の間に、何処かに不時着することも考えながら、ガラリと環境変化した飛行状態に対応すべく速度計と姿勢に注意しながらスピード確保にためにサイドスティックを押し、機体の迎角をマイナスにして、A320の自重を推力とする”滑空状態”に遷移させていったパイロットの咄嗟の判断力と操縦技量はたいした物である。
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もともと滑空することが目的で作られていない巨体を持つジェット旅客機をこうした突然襲った無動力状態の中で機体を滑空状態にもっていくことは至難の業である。
下図は滑空比の比較表である。滑空することが主目的の高性能ソアラーは高度1にたいして60近い数値をもっている。
ソアラーはそのためにスレンダーで滑らかな、パイロットがやっと乗れる最小の胴体と誘導抵抗の少ない大アスペクト比
持つ長くて細い大きな面積の主翼を持っている。
ジェット旅客機はそれに比べると大量輸送が目的の抵抗の大きな胴体直径と亜音速の高速時に最適な後退角を持つ面積の少ない主翼とおまけに滑空状態では重荷の動力飛行用の前面抵抗の大きいエンジンを抱えているので、約3分の一くらいの滑空比の20くらいが限度である。つまり滑空することは苦手なのだ。

操縦も推力が無い分レスポンスも悪かったに違いない。いつもはFMS(フライトマネジメントシステム)プログラムされた飛行経路をほとんどオートパイロットで運行しているパイロットにとってはまさに体勢感覚での操縦が求められた。 空港に引き返すことをせず無理のない浅い旋廻で不時着の被害が少なく、水平面が確保できるハドソン川へ機首を向けていった。このことは正しい判断といえる。
 大型機ともなると体勢感覚(飛行機の姿勢を自分の体で知り操縦すること)での操縦は一般的に困難といわれている。咄嗟の出来事のなかでオートパイロットを着陸モードに変更し、ハドソン川の着水面を予測でFMSにインプットし直すことは時間的にも不可能だ。ましてや設定できたとしてもオートパイロットはエンジン推力があることを前提して、プログラムされている。現在のジェット旅客機はエンジン推力を使って、着陸に必用な低速度領域を確保
しているのである。
 はて、スピードを落とすのになぜエンジン推力が必要なのか?と疑問の向きもあるので説明しよう。ジェット旅客機は高速を要求されるために主翼の面積は高速時(約マッハ0.6から0.9)に必要な揚力が出せる面積に設定している。そのため、離陸や着陸時の低速では主翼の面積が足りないのでフラップやスラットといった高揚力装置を繰り出して、翼の揚力係数を上げている。しかし、それは揚力が増えるがそのために抵抗が大きくなる。
 抵抗が大きくなればそれに打ち勝つ推進力が必要となるのである。読者も旅客機に乗ったときに着陸体勢時にエンジン回転があがっていることに気づきだと思う。この様な状態を専門用語ではバックサイドオペレーションと呼んでいる。

 こうした中で機長はマニュアル操縦で水面を目指した。A320はフライバイワイヤなのでエヤバス社が自慢する”絶対に失速しないプログラム”であるαフロア制御技術がパイロットの操縦を助けたと考えられる。フライバイワイヤはそもそも戦闘機用として開発が進んだ技術である。戦闘機はドッグファイトとなると急旋回や急加速が要求される。しかし、いかな戦闘機でも乗っているパイロットが失神したり、機体の強度限界をこえた操舵が行われると相手に負けてしまう。

そこでセンサーで集めたエヤーデータ(速度、高度、加速度、迎角、空気密度)を元にパイロットが加えた操舵量に対して、パイロットが失神せずに機体の強度限界ぎりぎりにそのときの最適な運動をさせる操舵量をコンピュータが計算して舵面を動かす仕組みである。その技術をエヤバス社は民間機用にアレンジして開発し、失速しない飛行制御技術として確立し、αプロテクションと呼びA320に搭載した。絶えず変化する対気データの中で航空機にそのときの飛行条件にあった失速しない最適な迎え角”α”を確保し、その安定粋を床(フロア)としてスピードを確保し、失速せずに飛行していくという考え方である。

 このαプロテクションの機能が作動していれば、A320はこの様な異常事態でもたとえパイロットが過大な迎え角操作をしても
それをカットし、適正な揚抗比を保つ迎え角を保ち、最適な滑空状態となるようにA320機の姿勢を保ち続けたであろう。
 さていよいよ着水であるが、いくつかの監視モニターに写った着水時のVTRをみたが機体は通常の着陸姿勢よりは機首をさげたマイナス姿勢で着水しているのがわかる。この最後の着水時にはフラップを少し下げ、わずかでもスピードを落とし、姿勢をプラスピッチにしようとしたパイロットの意図がうかがえる。このことは沈み行くA320の水面から露出した翼に前縁スラットが下がっていることから推測できる。
 もともとジェット旅客機には着水に備えた機体形状の配慮はされていない。水面着水という何万分の一に発生するかしないかわからない
異常事態に備えるために機体の重量増加につながる形状をさせることは製造コストや燃費に直接響くからである。
下図はわが国の代表的国産水上飛行機のUS1である。この様な飛行艇は水面からの離着水に備えて、下部の機体形状は
船の形をしたフロートにっていて着水時の水圧を左右の分けて減衰させる形状にしている。時速200〜300kmの高速水面滑走に最適になるようにV字型の船低形状でチャインやステップといった言わば”水”とのお付き合いを上手にするための形状を持たせている。もちろんこの部分は空中を飛行中は空気抵抗の少ない形が必須であり、水面に着水するときは密度差が約800倍の水圧の”洗礼”を受けることになるため、船底構造を強化し、水密シーラントをコートしている。

監視カメラが捕らえたA320の着水映像をみていると大きく水飛沫を飛ばして着水しているシーンのVTRを見たがおそらくこの着水の推定スピードは時速250km前後と見る。最近のジェット旅客機は双発で翼の下にエンジンをパイロンで吊るす方法が主流だ。
IATAが双発ジェット旅客機の大陸間横断飛行時の安全基準の120分ルールを見直してから、双発でも大陸間飛行が可能になった。もちろんその影にはエンジンの信頼性の向上があるが。ジェット旅客機デザインの定番となるつつある。航空マニアからみるとデザインが定型化されて、メーカーの見分けがつきにくくなるのとスタイルの面白さや個性が無くたっているのが
つまらないが。
今回その翼の下の2つのエンジン位置がこの不時着に多いに貢献している。
 ハドソン川の水面にまず最初に接触したのはほかならぬこの翼に吊るした2つのジェットエンジンである。
ジェットエンジンを収めたダルマ型の部分をエンジンポッドという。このポッドの形状が少しカーブしているので
水上スキーの板の効果に似て、最初の数秒間はこのポッドに当たる約300〜250kmの水流が生み出す揚力で機体をささえ、水面衝突スピードの緩和に大いに役立った。併せて、揚力の機体重心位置との関係でつくり出される回転力が安全な機首上げの姿勢を取らせるようにうまく働いた。次に序叙にファンブレードまで進水することでファンブレードが水圧でまわり、さらに衝突エネルギーの吸収になった。
これはハドソン川から引き上げられたA320の機体画像でも確認できる。
右側エンジンポッドの下部は著しく損傷し、カウリングパネルはめくれ上がっているが機体の機首の損傷は以外に少ないことが証明している。左側のエンジンは完全に脱落していて、川底から引き上げられた。エンジンは異常な力がかかると脱落するようにフューズピンで固定している。これは燃料タンクとなっている主翼の破壊につながらないようにしているためである。
今回もこのフューズピンのおかげで主翼が破れること無く、ジェット燃料でハドソン川が汚染されることを防いだ。

着水した直後の画像でも機体は左翼を水面上に上げた姿勢であり左エンジンが着水時の衝撃で脱落しているのがわかる。
 約2.5トンのエンジン重量があるので機体は傾いている。

 航空機は普通、水面に着水した場合15分くらいは浮いているといわれているのでこの間に機外に脱出する必要がある。
大型ジャンボ747の乗客500人でも5分以内に脱出する訓練をはしているので通常であれば慌てる必要はない。
 ある人から、空高く空気の薄いところでも飛べるように気密がしっかりしているのになぜ、沈むのか?と質問を受けた。
今回の脱出に関しては乗客が乗務員の指示に従わず慌てて機体後部の扉を不用意に開けて浸水させたのが機体が沈むのを
早めた原因である。しかし、ながら基本的には船や潜水艦と違って、その気密機能には限界がある。
 旅客機のキャビンのは出入り口の扉や床下貨物室の大型扉などの気密シールがされている。これは空気の薄い高空を飛行するため、人間が乗る機内キャビンは生存性と快適さを確保するため、約2300〜2500mの高原の気圧設定にしている(与圧キャビンと呼んでいる)。与圧はジェットエンジンの圧縮機から抽気した圧縮空気でおこなっている。

 2500m以上の高度設定だと、酸素不足となり、人の肺のガス交換作用が不良になり、高山病に似た症状を引き起こすし、ましてや与圧なしだと血液が体温で沸騰してしまい生存できなくなる。このキャビン高度はパイロットによって設定は自由になる。あるスパイ映画で後部キャビンに乗ったVIPの秘密書類を盗むため、コーパイロットになりすましたエージェントがキャビン高度を高く設定して気圧をさげ、機内を酸素不足状態にして、VIPを気絶させて、書類をマンマと盗み出すシーンがあったが、、、、、。
このため、扉や開口部にはしっかりと気密シール機能がある。下部に扉の一例を示す。このシールはインフレータブルシールと言って
ゴムシールの中が中空になっていて、扉を閉めてさらにこのシール内に圧縮空気をいれて膨らませ、しっかりと気密する方法である。これだとほぼ完全な気密状態が保てる。しかし、今回の事故では圧縮空気を供給するエンジンが停止していたり、後ろのAPU(補助エンジン)も着水時の吸水でストップして、圧縮空気の供給がストップするとこの気密効果は無くなる。

したがって、着水したA320はまず、床下のカーゴドアのシールの隙間や機体のアクセスパネルの隙間から水がじわじわ進入し始めるのは防ぎきれないのである。翼も見た目には浮力を持っているように見えるが、フラップやスラットなどの開口部が多くて気密性はないし、内部にはジェット燃料が満たされている。ラガーディアから西海岸に飛ぶ予定であり、突然の事態で空中投棄できる時間も無く、満タン状態である。このジェット燃料は比重約0.7なので水よりは軽いが、それとて比重3のアルミ合金製の翼に中に納めているのでやはり水には浮かばないのである。空気が残るとしたらキャビンの天井の空間であるが、それとて、推定総重量約50トンの機体を支える浮力は到底稼げない。A320の最後は敢え無くほぼ前没した状態となった。

 こうした機跡奇跡があざなえる縄のごとく絡みあい、良い方向へと向かって行き、今回の全員無事な生還ができたのは100数年足らずの航空史上に残る快挙である。
 記事の中には私の多くの推測が入っているがやがて、事故機のフライトレコーダー解析や事故検証で明らかにされるであろう。トムクルーズ主演の映画化の話がでているが、、、、、この極めて短時間に起こった出来事をどうやって、1時間30分にするかがが興味がわいてくる。航空マニアとしては、このような航空メカニズムの側面もうまく取り入れた映画にしてほしいと考える。2009年2月11日記。